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広島地方裁判所 昭和60年(行ウ)15号 判決 1990年1月25日

主文

一  被告福山税務署長がサン電子株式会社の昭和五五年六月一日から昭和五六年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和五七年七月八日付けでした更正のうち所得金額四九二三万四六五〇円を超える部分を取り消す。

二  原告の被告福山税務署長に対するその余の請求及び被告国税不服審判所長に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告福山税務署長が

(一) サン電子株式会社(以下「サン電子」という。)の昭和五五年六月一日から昭和五六年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五六年五月期」という。)の法人税について昭和五七年七月八日付けでした更正(以下「昭和五六年五月期の更正」という。)のうち所得金額零円、納付すべき税額二四四万二〇〇〇円を超える部分並びに

(二) サン電子の昭和五六年六月一日から昭和五七年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五七年五月期」という。)の法人税について昭和五九年三月二七日付けでした更正(以下「昭和五七年五月期の更正」といい、昭和五六年五月期の更正と併せて「本件更正」という。)のうち所得金額一億五三九四万五四二二円、納付すべき税額六四六五万二二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定」という。)のうち過少申告加算税五四〇〇円を超える部分

をいずれも取り消す。

2  被告国税不服審判所長が昭和六〇年六月一九日付けでした

(一) 前記1の(一)記載の更正に対する原告(サン電子より審査請求人の地位承継)の審査請求を棄却する旨の裁決並びに

(二) 前記1の(二)記載の更正及び過少申告加算税賦課決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の裁決

をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告とサン電子との関係

原告は、もと佐藤織産株式会社(以下「佐藤織産」という。)と称していたが、昭和五八年二月二二日、同社を合併会社、サン電子及びサン電機工業株式会社の両社を被合併会社とする合併を行い、同日、商号を株式会社サンエスと変更した。

2  被告福山税務署長の課税処分

サン電子は、広島県福山市野上町一丁目二番一一号に本店を有する会社であったが、被告福山税務署長に対し、同社の昭和五六年五月期及び昭和五七年五月期の法人税を青色申告書により、別表一、二の各課税経過表の「確定申告」欄及び「修正申告」欄記載のとおり確定申告及び修正申告したところ、同被告は、これに対し、右各課税経過表の「更正」欄及び「賦課決定」欄記載のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

3  課税処分の違法性

同被告の本件更正及び賦課決定処分は、昭和五六年五月期については、所得金額零円、納付すべき税額二四四万二〇〇〇円を超える部分、昭和五七年五月期については、所得金額一億五三九四万五四二二円、納付すべき税額六四六五万二二〇〇万円、過少申告加算税額五四〇〇円を超える部分はいずれも違法である。

4  不服申立て

サン電子は、昭和五七年九月一日、被告福山税務署長の昭和五六年五月期の更正に対し、被告国税不服審判所長に審査請求(以下「第一次審査請求」という。)をし、前記1記載の合併により、原告がサン電子の審査請求人の地位を承継した。また、原告は、昭和五九年五月二六日、被告福山税務署長の昭和五七年五月期の更正及び本件過少申告加算税賦課決定に対し、被告国税不服審判所長に審査請求(以下「第二次審査請求」という。)をした。

被告国税不服審判所長は、右両審査請求を併合した上、昭和六〇年六月一九日、右両審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、右裁決は、同月二七日、原告に送達された。

5  裁決の違法性

(一) 第一次審査請求及び第二次審査請求の経過は、次のとおりである。

(年月日) (手続)

(1) 第一次審査請求

五七・ 九・ 一 審査請求

五七・ 九・二五 被告福山税務署長答弁書提出

五七・一〇・ 五 担当審判官指定通知(その後、二度担当審判官変更通知)

六〇・ 三・二七 担当審判官より質問書

六〇・ 四・ 一 右質問に対する回答書提出

六〇・ 四・一一 第二次審査請求を併合する旨の通知

六〇・ 六・一九 裁決

六〇・ 六・二五 裁決書送達(六・二七到達)

(2) 第二次審査請求

五九・五・二六 審査請求

六〇・ 四・ 二 被告福山税務署長答弁書提出

六〇・ 四・一一 担当審判官指定通知

第一次審査請求に併合

(二) 国税不服審判所は、国民の国税に関する権利救済を迅速に行うため、司法機関とは別に設けられた行政機関であるから、審査請求には、特に迅速性が要請され、裁決は、社会通念上相当期間内に行うべきものであり、特段の事由のない限り、相当期間経過後になされた裁決は、違法というべきである。

ところが、第一次審査請求については、右特段の事由がないにもかかわらず、審査請求後、裁決が送達されるまで、一〇三〇日という長期間を要しているのであって、右相当期間経過後の裁決であり、違法である。

また、第二次審査請求については、前記経過に照らすと、審査請求後一年近く経過して担当審判官の指定がなされ、それと同時に第一次審査請求との併合手続がなされているが、右担当審判官指定及び併合手続は、単に形式を整えるためになされたに過ぎず、右法的手続がなされないまま、事実上の併合審理がなされ、審理に関与すべきでない者が関与した疑いがある。

したがって、本件裁決は、違法であるといわなければならない。

6  結論

よって、原告は、被告福山税務署長の本件更正及び過少申告加算税賦課決定のうち前記3記載に係る部分並びに被告国税不服審判所長の本件裁決の各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告福山税務署長

請求原因1、2及び4の各事実はいずれも認め、同3の主張は争う。

2  被告国税不服審判所長

請求原因のうち1、2、4及び5の(一)の各事実はいずれも認めるが、その余は争う。

三  被告福山税務署長の主張

1  課税処分に至る経緯

(一) 本件更正及び過少加算税賦課決定の経過は、別表一、二の課税経過表記載のとおりである。

(二) 自動車の整備販売等を事業目的とする同族会社であるサン電工株式会社(以下「サン電工」という。右会社の設立当初の商号は、中国自動車整備株式会社(以下「中国自動車整備」という。)であるが、昭和五五年三月一日に商号を変更したものである。)は、昭和五五年一〇月一日、電子及び電気製品の部品製造を事業目的とする同族会社であるサン電子株式会社(以下「旧サン電子」という。)を被告合併会社とする合併(以下「本件合併」という。)を行った上、同日商号をサン電子株式会社(以下「サン電子」という。)に変更した。

サン電子は、本件合併の日を含む事業年度である昭和五六年五月期の法人税の確定申告に当たり、サン電工が有していた法人税法(以下「法」という。)五七条の規定が適用される繰越欠損金(以下「本件繰越欠損金」という。)の一部を所得金額の計算上損金の額に算入し、所得金額を零円として確定申告をした(別表一の「確定申告」欄参照)。

(三) これに対し、被告福山税務署長は、所部係官(以下「係官」という。)をして右事業年度の法人税の調査を行わせたところ、本件合併は、後記2で述べるとおり、通常の経済人の行為としては、極めて不自然、不合理ないわゆる逆さ合併であり、経済人としての合理的な目的を有したものとはいえず、合併法人としたサン電工が有していた繰越欠損金を法五七条の規定を利用して、サン電子の損金の額に算入することにより、租税負担の回避又は軽減を図ったものであると判断したが、右繰越欠損金の損金算入に係るもののほかにも、その申告を是正すべき事項を発見した。

(四) そこで、係官は、これらを併せて修正申告するように勧奨したところ、サン電子は、その他の部分については修正申告書を提出したが、繰越欠損金の損金算入に係る部分についての修正申告をしなかったので(別表一の「修正申告」欄参照)、被告福山税務署長は、法一三二条の規定を適用して旧サン電子を合併法人とし、サン電工を被合併会社とする合併として取り扱い、法五七条の適用を排除して右繰越欠損金の損金算入を否認して法人税の更正に及んだものである(別表一の「更正」欄参照)。

しかしながら、右更正は、法一三二条の規定を適用するという極めて稀有の事例であったことから、サン電子が過少申告となったことについては、国税通則法六五条二項(昭和五九年法律第五号による改正前のものであり、現行の同条四項に当たる。以下、同じ。)に規定する「正当な理由がある場合」として、過少申告加算税は賦課しなかった。

(五) ところで、サン電子は、昭和五六年五月期の更正において右に述べたとおり繰越欠損金の損金算入が認められないとされたにもかかわらず、その後の事業年度である昭和五七年五月期の法人税確定申告に当たっても、これを損金に算入していた(別表二の「確定申告」欄参照)。

そこで、被告福山税務署長は、係官をして右事業年度の法人税の調査を行わせたところ、繰越欠損金の損金算入の誤り以外にも是正すべき事項を発見したため、前事業年度の場合と同様にサン電子に対し修正申告を行うように勧奨したが、サン電子は、その他の部分については修正申告書を提出したものの、繰越欠損金の損金算入に係る部分についての修正申告をしなかったので(別表二の「修正申告」欄参照)、前事業年度の場合と同様に繰越欠損金の損金算入を否認して法人税の更正に及んだものである(別表二の「更正」欄参照)。

そして、被告福山税務署長が既に前事業年度の更正により繰越欠損金を損金に算入することは認めることができないことを明らかにしていたところであるから、サン電子がこれを無視して過少申告ををしたことについては、前記「正当な理由がある場合」には当たらないので、併せて過少申告加算税の賦課決定を行ったものである。

2  本件更正処分の適法性

本件更正処分が適法か否かは、本件繰越欠損金の損金算入が、繰越欠損金の損金算入を定めた法五七条の規定の趣旨に照らし、法一三二条にいう法人税の負担を不当に減少させる結果となる場合として否認されるべきものであるか否かという観点から検討すべきものである。

(一) 法五七条の目的・趣旨

法五七条の規定は、法人税を課す場合において現行法が各事業年度毎に独立して課税することを原則としているところから、この原則を貫くと各事業年度を通じて所得計算をする場合に比し、税負担が過重になる場合が生ずるので、その緩和を図るため、一定の条件を付した上、欠損金の繰越控除を認めるために特別に設けられたものであり、租税立法政策上の特例規定である。

同条の右のような目的・趣旨に照らすと、同条により繰越欠損金額を損金の額に算入することのできる法人は、その前提として当該法人の事業経営上生じた法所定の繰越欠損金額を有する法人に限られる。したがって、別法人の事業経営上生じた欠損金額については、同条の適用はなく、その結果、法人が他の法人を吸収合併した場合において、税務上、被合併法人の有する繰越欠損金額を合併法人の当該各事業年度の所得の金額の計算上損金に算入することは認められていないのである。この理は、繰越欠損金を有する赤字法人を合併法人とする合併方式(いわゆる逆さ合併)を採用した場合にも妥当するのであって、右合併形式を採用している場合でも、例えば、合併法人たる赤字法人が合併の前後を通じて企業の実態を欠き形骸化しているため、経済的実質においては被合併法人たる黒字法人が合併法人であり、赤字法人は、消滅する被合併法人であると見られる関係にあるときは、法形式上合併法人たる赤字法人につき繰越欠損金を損金算入するように見えても、その実質は、被合併法人たる黒字法人につき合併法人の繰越欠損金の損金算入をするものであるから、法五七条を適用することは許されない。

以上のように、法五七条の目的・趣旨に照らし、逆さ合併を採用している場合でも、繰越欠損金の損金算入を認めるべきでない場合が存在するから、これが法一三二条にいう法人税の不当な減少に当たる場合には、その損金算入を否認すべきこととなる。

(二) 法一三二条の適用について

法一三二条は、同族会社等が通常の経済人の選ぶ行為形態として不合理であると認められる行為計算すなわち殊更に不自然、不合理な行為計算を採ることにより、不当に法人税を回避、軽減する結果となる場合に、かかる行為計算を否認して、これを合理的な行為計算に引き直して課税するものである。一般的に、私的自治の原則、契約自由の原則により、私法上許される法形式の選択可能性を濫用又は不当に利用し、通常の法取引形式を選択せずに、通常の法取引形式を選択した場合と同一の経済的効果を達成しながら租税負担を軽減する行為は、租税回避行為といわれるが、かかる租税回避行為が租税の特質の一つである公平平等主義に反する行為であることは明らかであって、税法上特別の規定を待たずに否認できるものである。法一三二条は、かかる租税回避行為を否認し得ることを例示的に確認した規定である。このように、同条は、同族会社に係る租税回避行為否認の法理を具体的に成文化した規定として租税負担の公平の実現を図るものであるから、例えば、法五七条のごとき税法の個々の規定が定める要件を形式的には充足するようにみえても、これを適用するならば、実質上当該規定を設けた趣旨にもとると見られる結果を生じる場合には、当然法一三二条を適用して、当該行為又は計算を否認できるものと解すべきである。

(三) 本件合併の経緯

本件合併の当事者たる合併法人サン電工と被合併法人旧サン電子とは、ともに佐藤織産と同様、佐藤敬治、佐藤優、佐藤秀毅及び佐藤群治郎(以下、右四名の者を「佐藤一族」という。)がその発行済株式の過半数を直接又は間接に有する法人(以下、右のような法人を併せて「佐藤企業グループ」という。)であり、本件合併の経緯は、次のとおりである。

(1) サン電工は、昭和四一年一一月三〇日、自動車の整備加工並びに自動車及び自動車部品の販売を目的とし、資本金一五〇万円で設立され、中国自動車整備と称していたものであるが(昭和五五年三月一日に商号変更)、設立以来業績不振により累積赤字が増加し、合併直前にはその額が一億〇三〇〇万五六四三円にものぼり(別表三「サン電工・旧サン電子の合併前の概況」の「合併法人」の「所得金額」欄及び別表四「サン電工・旧サン電子合併時貸借対照表の「負債資本の部」の「サン電工」欄の「繰越欠損金」欄参照」、倒産の危機に陥っており、漸次事業閉鎖の方向へ向かっていたものである。

(2) サン電工は、その後、本件合併前の昭和五五年二月末日をもってその事業を廃止するとともに、同年三月二九日付けで自動車分解整備事業の監督官庁である広島陸運局長へ事業廃止届を提出し、従業員も合併前の同年七月二三日までに全員解雇しており、合併後の事業の用に供される設備、従業員又は欠損金を補填するに足る経済的価値のある無形資産の存在は認められず、その実体は休眠会社であり、実質的には経営実体のない会社であった。

(3) 一方、被合併会社とされた旧サン電子は、昭和四五年七月一八日電子、電気製品の部品製造を目的とし、資本金五〇〇万円(昭和四九年三月九日増資により二〇〇〇万円となる。)で設立された会社であるが、設立以来、電子業界の好況により、業績は極めて良好であり、連年多額の利益を計上しており(別表三「サン電工・旧サン電子の合併前の概況」の「被合併法人」の「所得金額」欄並びに別表四「サン電工・旧サン電子合併時貸借対照表」の「負債資本の部」の「旧サン電子」欄の「利益準備金」、「別途積立金」及び「繰越利益金」欄参照)、その従業員は二〇〇名を超える優良企業である。

(4) サン電工は、前記のとおり昭和五五年三月一日に商号を変更し、同月中に四五〇万円、同年四月中に九〇〇万円、同年五月中に一〇〇〇万円合計二三五〇万円の増資をそれぞれ行っているが(別表五「サン電工の株主並びに持株の異動及び持分比表」参照)、増資によって得た資金は、増資の都度、系列会社である佐藤織産からの仮受金の返済に充てられていたから、右増資に係る新株式に通常の資産価値は全く存しないものである。

しかも、右増資のうち第一回目の四五〇万円は、佐藤織産が全額を払い込み、第二回目の九〇〇万円は、第三者割当の方法により系列会社のサン開発株式会社(以下「サン開発」という。)が八七五万円を、谷本忠が一二万五〇〇〇円を、残額一二万五〇〇〇円は従来からの株主横谷紀昭がそれぞれ払い込み、さらに、第三回目の一〇〇〇万円は、サン開発が全額払い込んでいるが、その際、その経営状況からして資産価値がないにもかかわらず、同年三月五日及び同年四月三日には、同族株主間において旧株式の譲渡が行われており、このような不平等増資や株主間の持株の譲渡は、サン電工の株主構成及び株主の持株割合を旧サン電子のそれと一致させるために行われたものである。

(5) サン電工は昭和五五年五月二〇日、旧サン電子は同月二三日、それぞれの事業年度を毎年五月末日とするように変更し、両社の決算期を一致させた。

(6) サン電工と旧サン電子は、昭和五五年七月一日調印した合併契約により、同年一〇月一日サン電工を合併会社、旧サン電子を被合併会社として合併した。そして、合併会社サン電工は、合併期日において商号、本店所在地、事業目的を被合併会社とした旧サン電子のそれと一致するように変更し、サン電工が目的としていた事業は全く行わず、被合併会社旧サン電子の「電子、電気製品の部品製造」の事業のみを継続している。

(7) 本件合併時のサン電工の帳簿価額による債務超過額は、七五四二万八八〇三円(別表四「サン電工・旧サン電子合併時貸借対照表」の「サン電工」欄の繰越欠損金一億〇三〇〇万五六四三円から資本金二五〇〇万円と繰越利益金二五七万六八四〇円の合計額を控除した金額)であり、他に当該債務超過額を補填するに足る含み資産はなく、一方、旧サン電子の帳簿価額によると純資産価額は、一億七六四五万一〇八一円(別表四「サン電工・旧サン電子合併時貸借対照表」の「旧サン電子」欄の「資産の部」の合計額五億五八四二万八六七九円に評価勘定である貸倒引当金四九〇万円を加えた資産の総合計五億六三三二万八六七九円から支払手形から預り金までの負債の合計額三億八六八七万七五九八円を控除した額)である。

このように両社の資産内容及び収益状況は、著しくかい離しており、また、サン電工自体事業を閉鎖していた当時の状況からは、通常合併できる状況にないにもかかわらず、合併比率を一対一とする対等合併としているのである。

(四) 本件合併における租税回避行為

以上の本件合併の経緯に照らすならば、本件合併は、合併の法形式とその経済的実質がかい離しており、法形式としては、赤字法人であるサン電工が黒字法人である旧サン電子を吸収合併したものであるが、その経済的実質は、黒字法人である旧サン電子を合併法人として、赤字法人であるサン電工を被合併会社とする吸収合併であると評価すべきものである。

したがって、法五七条を適用してサン電工の有する繰越欠損金を損金算入することは、実質上旧サン電子がサン電工の事業経営上生じた繰越欠損金を旧サン電子の損金として算入することにほかならず、右の損金算入は、法五七条の目的・趣旨に照らして許されないものというべきである。

さらに、本件合併には、本来あるべき合併の姿からは、掛け離れた不合理、不自然さがあり、それが法人税の負担を不当に免れようとしたものであることが明らかである。すなわち、本件合併は、前述のように合併の形式としては、赤字法人たるサン電工が黒字法人たる旧サン電子を吸収合併したものであるが、欠損会社と優良会社が合併すれば、優良会社は、欠損会社の債務を継承するものであるから、それだけに両当事会社において合併を必要とする経済的合理性のある理由が存在すべきものであり、殊に、本件合併のように一方の当事会社であるサン電工が前記のとおり合併前において既に企業としての実体を失い、多額の欠損金のみを有する状況のもとでは、右欠損会社を合併法人とし、優良会社を被合併法人として行う吸収合併においては、優良会社にとって経済的合理性のある理由を必要とするのは当然のことである。

ところが、佐藤企業グループ内にあって、サン電工と旧サン電子とは、直接的な資本の関連はなく、また取引上の結び付きも全くないのであって、佐藤一族にとっての関係会社という程度であり、合併当事会社間では関係会社とはいえず、サン電工の倒産は、佐藤一族らの個人的信用に影響を及ぼすことはあっても、旧サン電子には直接的には何らの影響も及ぼさない。したがって、旧サン電子にとって本件合併は、事業上における経済的利益が全くないのみならず、むしろサン電工の債務を引き受けるべき法律関係は全く存しないのに、サン電工の債務を実質上引き継ぐことによって損害を被っている。しかも、本件合併にあっては、旧サン電子の合併に伴うデメリットが解消されるべき特段の事情がないだけでなく、サン電工側から見ても何ら同社の企業再建が図られるわけではないのであるから、両当事会社にとって合併の経済的合理性は存しない。

また、仮に佐藤企業グループの中核会社である佐藤織産がサン電工の倒産を拱手傍観した場合、佐藤織産自体の信用失墜ひいてはその倒産を招き、これが佐藤織産に人的、物的に大きく依存している旧サン電子に対しても大きな打撃を与えかねなかったとしても、サン電工の倒産防止のための方策としては、佐藤企業グループ全体による融資等も考えられ、その方策が本件合併以外になかったものということはできない。

なお、「債務超過の状態にある株式会社を解散会社とする吸収合併の登記は受理できない」との法務省見解(昭和三三年五月二六日付民事四発第七〇号民事局第四課長変更指示)があるが、現実の登記実務上は、合併の登記申請時に被合併法人の欠損金を明らかにする必要はなく、また登記官が右の点を審査する機会もないため、欠損会社を被合併法人とする合併の登記申請が現実に受理され、登記されている実情にある。このことからすれば、本件合併においてその法形式を逆さ合併とした原告の意図は、右法務省見解に従うことにあったのではなく、順合併の形式では許されないサン電工の繰越欠損金の損金算入を逆さ合併の形式を採用することによって実現することにあったものというべきである。

以上のように、旧サン電子とサン電工の合併については、両当事会社にとって経済的合理性がなく、本件合併は、当時多額の赤字を抱え、もはや再建の見込みのないサン電工の再建、更にはサン電工の倒産による佐藤企業グループ全体の信用失墜の防止を口実に同グループ内における最優良会社である旧サン電子の法人税の減少をもくろんだものであって、サン電工による旧サン電子の吸収合併を前提にサン電工の有する繰越欠損金を損金に算入する行為計算は、法一三二条にいう法人税の負担を不当に減少させる租税回避行為に当たる。

(五) まとめ

以上によれば、本件合併にあっては、合併の法形式においてサン電工が合併法人、旧サン電子が被合併法人とされているが、その経済的実質は、サン電工が被合併法人、旧サン電子が合併法人であり、しかも右合併当事会社においては合併を必要とする理由が存しないのに、旧サン電子の法人税の負担を不当に減少させようとして前記の合併の法形式を選択したものである。右の事実関係の下でサン電工の繰越欠損金について損金算入を認めることは、法五七条の目的・趣旨に反し、同法一三二条に規定する租税回避行為を放置することとなるから、被告福山税務署長は、同条の規定を適用し、右の損金算入を否認したのであって、右は、正当であり、その他に違法と目すべき理由は存しないから、本件更正処分は適法である。

3  本件過少申告加算税賦課決定の適法性

昭和五七年五月期の確定申告時においては、原告は、昭和五六年五月期の更正の理由を承知していたところであり、これによれば、昭和五七年五月期の更正による課税標準等の計算の基礎となった事実につき、原告がその計算の基礎としていなかったことについて、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定に基づいて行った本件過少申告加算税賦課決定にも何ら違法はない。

四  被告国税不服審判所長の主張

1  担当審判官は、本件審査請求につき早期に処理すべく、鋭意審理したのであるが、第一次審査請求に長期間を要したのは、本件合併が利益を追求する経済人として設立された法人である会社の間においては、社会通念上考えられない合併であり、事実の確認及び法律の解釈に慎重を期したためであり、何ら違法ではない。

2  国税通則法上、国税不服審判所長の裁決には期間の定めはなく、裁決について裁決期間の定めがある場合でも、それは一般に訓示規定と解され、右期間経過後に裁決がなされても、それが違法となるものではない。

また仮に、本件裁決が遅延のため取り消されるとすれば、改めて裁決し直さなければならなくなり、その結果、本件裁決よりも一層遅延したものとなり、これまた取り消し得べき裁決となるため、適法な裁決を得ることはできなくなり、不合理である。

3  原処分庁の答弁書が提出され、争点が明らかにならない限り、それ以前に担当審判官を指定し審理に入ったところで、争訟経済に反し、また審判所の争点主義的運営にも反するところから、被告国税不服審判所長は、第二次審査請求につき原処分庁の答弁書の提出があった後直ちに担当審判官を指定し、第二次審査請求を第一次審査請求に併合して審理の上、本件裁決に至ったものであって、その手続に何ら違法はない。また、そもそも行政不服審査手続においては、審査請求事件が係属すれば、審判所は、その審理をする権能を有するのであるから、仮に担当審判官の指定、事件の併合がなされる以前に何らかの事実上の併合、審理がされていたとしても、審理手続及び裁決が直ちに違法となるものではない。

五  被告らの主張に対する原告の認否

1  被告福山税務署長の主張に対する認否

(一) 同被告の主張1のうち(一)、(二)、(四)、(五)はいずれも認めるが、(三)は否認する。

(二) 同2の冒頭の部分、(一)及び(二)は争う。

同2の(三)の冒頭の部分は認める。

同(三)の(1)のうち「漸次事業閉鎖の方向へ向かっていた」との部分は否認し、その余は認める。

同(三)の(2)は否認する。サン電工は、現実に一億二八一七万円の資産(外に約一七〇〇万円の借地権)を有していたし、本件合併直前に事業の転換を図って従来の事業(自動車整備販売業)は廃止したが、既存の債権の取立て、債務弁済などの業務を遂行中であり、かつ電機・電子製造事業への転換を企画準備中であったものであり、この間に本件合併案が出て、昭和五五年七月一日本件合併契約が締結されるに至ったものである。したがって、サン電工は、経済的実体を有し、事業活動を行なっていたのであって、休眠会社ではない。

同(三)の(3)は認める。

同(三)の(4)のうち「右増資に係る新株式に通常の資産価値は全く存しないものである」との部分及び「その経営状況からして資産価値がないにもかかわらず」との部分は否認し、その余は認める。

同(三)の(5)は認める。

同(三)の(6)のうち「サン電工が目的としていた事業は全く行わず、被合併会社旧サン電子の電子、電気製品の部品製造の事業のみを継続している」との部分は否認し、その余は認める。

同(三)の(7)のうち「また、サン電工自体事業を閉鎖していた当時の状況からは、通常合併できる状況にないにもかかわらず」との部分は否認し、その余は認める。

同2の(四)、(五)は争う。

(三) 同3のうち「昭和五七年五月期の確定申告時においては、原告は、昭和五六年五月期の更正の理由を承知していた」との部分は認め、その余は否認する。

2  被告国税不服審判所長の主張に対する認否

争う。

六  被告福山税務署長の主張に対する原告の反論

1  本件合併の経緯

(一) 本件合併の当事者であるサン電工と旧サン電子は、いずれも佐藤織産の系列に属した会社である。

佐藤織産は、佐藤群治郎が昭和七年に始めた広幅織物製造業、被服縫製加工卸問屋の個人事業を昭和二四年に株式会社としたものである。佐藤企業グループは、昭和四〇年以降、電子、電機業界にも進出し、旧サン電子及びサン電機工業株式会社を設立し、シャープ株式会社と提携して、前者は卓上電子計算機、半導体を、後者は複写機を製造していた。この他、佐藤企業グループに属する企業には、軍鶏被服株式会社、サン開発株式会社、サン観光株式会社、サン油機工業株式会社及びサン電工の前身である中国自動車整備とがあった。

これら佐藤織産及びその系列会社の発行済株式の過半数は、佐藤群治郎及びその三人の子(長男敬治、二男優及び三男秀毅)が直接又は間接に所有しており、また、中国自動車整備以外の会社の代表取締役には、佐藤敬治が就任し、同人の指揮下に佐藤織産を中核的存在としつつ、各社は、資本、人事関係、事業用地、資金の貸借関係、債務の保証関係、担保関係など事業全般にわたり、緊密に協力して事業を営んでいた。

中国自動車整備は、昭和四一年一一月三〇日佐藤秀毅が中心となって設立され、同人が代表取締役に就任し、当初は専ら自動車の修理加工を行っていたが、後に自動車の販売を行うようになった。同社の業績は、永年不振であったが、吉川斉一が取締役となって自動車の販売を拡張してから資金繰りのため架空ないし不良売上を計上するなどしたので、金融機関からの借入れが急増し、経営が危殆に瀕するに至った。

(二) このような中国自動車整備の倒産を放置したのでは、佐藤企業グループ全体に対する世間の信用が失墜することは明らかであった。すなわち、佐藤織産は、当時、繊維産業全般の不況の中で、製品価格値下りによる赤字経営を余儀なくされ、資金繰りもかなり逼迫し、融資元の金融機関からも警戒され始めるような状況にあった。このような状況下で、もし佐藤織産が中国自動車整備の倒産を拱手傍観するならば、佐藤織産自体の信用もたちまち疑われ、融資を差し止められるおそれが十分あり、それは、佐藤織産の倒産を意味した。そのため、佐藤織産としても、中国自動車整備の経営危機を放置することはできず、その債務を保証し、融資を増大するなど援助に乗り出したが、佐藤織産自体も資金の余力に乏しかったので、援助には限界があった。

そこで、中国自動車整備の業績の芳しくない自動車整備、販売業等を廃業して佐藤企業グループ内で業績のよい電子、電機事業に転換させることとし、同社の昭和五五年一月一八日開催の取締役会においてその旨決定し、同年三月一日開催の臨時株主総会において、事業目的に「電子並びに電気製品の部品の製造」を加え、商号を「サン電工株式会社」に変更した。しかし、新規事業を行うために必要な設備資金の手当てや人材確保が容易でなく、成算が立たず、結局、最後の手段として旧サン電子と合併することとしたものである。

旧サン電子は、佐藤企業グループの中で比較的経営が好調であったが、同社は、資本、役員の関係で佐藤織産に繋がっていたばかりでなく、その本社工場用地を佐藤織産から賃借し、佐藤優(当時佐藤織産副社長)の人的繋がりでシャープ株式会社と取引するなど、佐藤織産に大きく依存していたから、佐藤織産が倒産するような事態になれば、旧サン電子の経営もそのままでは成り立たず、大きな打撃を受けることは必至であった。したがって、旧サン電子としてもサン電工の倒産を拱手傍観することはできなかったから、倒産を回避するため、これと合併することは十分理由があったものである。

(三) サン電工と旧サン電子との合併の形式を旧サン電子を被合併会社、サン電工を合併会社とした理由は、主として次のとおりである。

すなわち、合併時、旧サン電子は黒字会社、サン電工は赤字(欠損)会社であったところ、国税庁の取扱いによれば、被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継ぐことを認めないこととされているので、税務上、欠損会社を合併法人にしないと不利益を被ること、また、法務省の取扱いによれば、欠損会社を被合併会社とする合併の登記は受理されないこととなっていることである。

(四) 以上の経過を経て、昭和五五年七月一日、サン電工と旧サン電子との間において、前者を合併法人、後者を被合併会社とし、合併比率を一対一とする合併契約書が作成調印され、同年八月一一日開催の両社臨時株主総会において右合併契約書は承認された。両社は、直ちに知れたる債権者に右合併を通知し、またその公告をしたが、これに異議を述べた債権者は皆無であった。

2  本件更正処分の違法性について

(一) 法一三二条により否認できるのは、次に述べる理由により、同族会社とその株主その他特殊関係者(個人)との間における作為的取引(いわゆる隠れたる利益処分。隠れたる利益処分とは、本来、会社が計算書類上公然と利益であることを表示し、これを正規の利益分配(配当等)の手続等により社員に払い出すべきであるのに、これに代えて社員との売買、賃貸借、役務提供等の取引において社員に過大の利益を与え、他方これによって会社の利益を減少させることをいう。)に限られるものと解すべきである。

(1) 同族会社の行為計算の否認規定は、大正一二年の所得税法改正により、同法七三条ノ三に規定されたのが最初であるが、右規定の文言及び立法趣旨から、同族会社の行為計算の否認における否認の対象は、同族会社とその株主又は社員その他特殊関係者(いずれも個人)との間における行為(取引)に限られていた。右規定は、その後の若干の改正を経て、昭和二五年の法人税法改正により同法三一条の三にほぼ現行一三二条と同様の文言の規定が設けられた。右規定の文言自体では、否認の対象は、単に「同族会社の行為又は計算」となり、「同族会社とその株主その他特殊関係者との間における行為」に限る趣旨は規定上不明確になったが、税務行政においては、当初から一貫して、否認の対象を同族会社とその株主その他特殊関係者(個人)との間の行為に限定して、この否認規定を適用していたのであり、昭和二五年の右改正後においても変りがない。現に、昭和二五年に国税庁が策定した旧法人税法基本通達三五五項は、法三一条の三(現行一三二条)の運用の指針として、否認の対象となりうべき同族会社の行為類型を一一列挙しているが、これらは、いずれも同族会社とその株主その他特殊関係者(個人)との間における、隠れたる利益処分に該当する行為に限定されている。

(2) 法一三二条は、特に同族会社に限って(同条一項二号の企業組合を措く。)、租税回避行為を否認する旨の規定であるから、同規定において否認の対象となるのは、同族会社であるがゆえになし得る(非同族会社ではなし得ない)不合理、不自然な行為で税負担減少の結果をもたらすものである。もし、同族会社、非同族会社を問わずなし得る行為を同族会社に限って否認できる趣旨の規定であるとすれば、かかる規定は、憲法一四条に反することになる。

そして、同族会社であるがゆえになし得る行為は、具体的には、前記旧法人税法基本通達三五五項に規定する同族会社とその株主その他特殊関係者(個人)との間における取引に限定される。

しかるに、サン電工と旧サン電子とは、相互に同族会社とその株主その他特殊関係者の関係にはないし、そもそも合併(合併自体又は合併形式)は、右にいう否認の対象たる会社とその株主等との間における隠れたる利益処分に該当しないから、本件合併を法一三二条に基づいて否認することは許されない。

(二) 合併のようないわゆる組織行為を否認した場合には、否認に基づき律するべき課税関係が複雑となり、適正な課税処分が実務上困難となる。したがって、法一三二条は、会社の設立、解散、合併などの組織行為については適用すべきでない。

(三) 仮に、本件合併につき法一三二条を適用することが許されるとしても、本件合併については、同条の定める否認の要件を具備していない。

同条は、特に同族会社の租税回避行為に限って否認することができる旨を定めた規定であるから、同条に基づき否認することのできる行為は、(1)同族会社の行為・計算であること、(2)非同族会社ではなし得ないような不自然・不合理な行為であること、(3)法人税の負担を不当に軽減する結果となる行為であることの全ての要件に該当するものでなければならないところ、本件合併については、次に述べるとおり、右(2)、(3)の要件を具備していない。

(1) 本件合併においては、合併に先立ってサン電工が株式譲渡、増資により、その株主構成を旧サン電子の株主構成と同一にした上、対等合併している。欠損会社の合併については、特に合併比率など合併当事会社の株主間の権利調整について困難な問題があるので、同一グループに属する会社間の合併においては、当事会社の株主間の利害を調整する実践的な方法として、合併に先立ち、合併当事会社の株主構成を同一にして対等合併をすることがしばしば行われているのである。

また、右株式譲渡は、額面金額をもってなされているが、いかなる価額で株式を譲渡するかは、本来当事者の自由であるばかりでなく、関係の緊密な企業グループ内においては、所属各社の相互依存ないし相互保証の程度が高いので、単に個々の会社の純資産(又は欠損)額によってその株価を決定するのは妥当ではないし、実際、かかるグループ内においては、一律に額面金額で取引されているのが一般的である。

したがって、このような譲渡、引受によって必要に応じて株主構成を変えることは何ら不自然、異常なことではない。

(2) 仮に、そのような方法を経由する合併が不自然、異常だとしても、本件合併は、前述のように、サン電工の倒産による佐藤企業グループの連鎖倒産を回避することを究極の目的とするものであって、経済的理由があり、合理性がある。

被告福山税務署長は、旧サン電子には、サン電工を合併して同社を支援すべき法律上の責任はない旨主張するけれども、企業の倒産は、その企業の属するグループ外の多数関係者にも迷惑を及ぼすのであるから、もしグループ内の他社が「支援すべき法律上の責任はない」との理由でこれを傍観し、倒産するに任せていたならば、社会的非難を受け、グループ全体の信用が失墜することは明白である。そこで、サン電工の経営危機に際し、前述のとおり、佐藤企業グループは、全体としてその支援に乗り出し、その一環として本件合併がなされたのであって、本件合併は、通常の経済人の行為として極めて自然なものであって何ら異常なものではない。

ところで、本件合併においては、サン電工が存続会社、旧サン電子が消滅会社となって合併した。このような形式の合併をした動機は、前記のとおりサン電工が九五三二万円余の繰越欠損金を有していたところ、同社を消滅会社とした場合には、国税庁通達、裁判例により、繰越欠損金の承継が認められず、課税上不利な扱いを受けるので、これを避けることにあった。

本件合併が租税回避行為か否かを判断するに当たっては、本件合併全体につき事業目的(経済的合理性)を有するものか否かを判断すべきであって、単にその逆さ合併の形式についてだけそれを判断すべきではない。合併の形式は、合併の手段であり、合併という一つの経済的・法的行為の一面にすぎない。逆さ合併という形式を採用した動機は、課税上の不利益を回避することにあったけれども、本件合併自体は、経済的・合理的理由を有するものであることは前述のとおりである。事業目的は、合併自体に存すれば十分であり、その形式にまで存する必要はない。

(3) 本件合併の形式は、何ら異常、不自然ではなく、通常行われているものである。合併の方式には、設立合併と吸収合併とがあるが、現実に行われているのは、ほとんどが吸収合併である。吸収合併において、いずれを存続会社とし、解散会社とするかについては、商法に特に規定はなく、諸般の事情を総合的に勘案して自由に決定されることである。合併の本質を解散会社の財産が存続会社に現物出資されたものとみる現物出資説においては、新株発行に際しての資本充実の原則から、現物出資を行う解散会社は、欠損会社であってはならないとされる。また、登記の実務においても、欠損会社を被合併法人とする登記は受理されないことになっている(昭和三三年五月二六日付民事四発第七〇号民事局第四課長変更指示)。そうすると、赤字会社と黒字会社との合併においては、逆さ合併以外の法形式の選択の余地はないのであるから、逆さ合併こそが通常行われる形式であるといわなければならない。したがって、右法形式の合併を異常、不自然であるとしてこれを否認することは許されない。

もっとも、本件合併後、サン電工は、商号、本店所在地を旧サン電子のそれに変更したが、その理由は、次のとおりである。すなわち、旧サン電子は、シャープ株式会社の一〇〇パーセント下請会社であるところ、シャープ株式会社においては、製品の安全規格に関する通産省の認定及び輸出品の安全規格に関する登録などで旧サン電子製品につき「サン電子」の名称を使用してきたため、この名称を変更すると、国内外の認定・登録等届出書類の改変に多大の時間・費用を要することになるので、これを避けるため、同社より「サン電子」の名称、所在地を継続するように要望されたからである。したがって、右変更をもって異常、不自然であるとはいえない。

(4) 仮に、本件合併のような逆さ合併の方式すなわち赤字会社が黒字会社を合併する形式、或いは小会社が大会社を吸収合併する形式が不自然、不合理なものであると仮定しても、同族会社の行為又は計算の否認の要件としての行為の不自然性、不合理性は、同族会社ゆえになし得る、非同族会社ではなし得ないようなものでなければならないところ、右のような逆さ合併は、非同族会社においても行なわれているものであるから、本件合併は、否認の要件に該当しない。

(5) 仮に、右主張が認められないとしても、サン電工を存続会社、旧サン電子を消滅会社とする合併をしたのは、現在の税務行政の取扱いにおいて、合併法人が被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことを認めていないことから、もしサン電工を解散会社とする合併を行なうと、同社の有する欠損金の繰越控除という本来享受できる筈の課税上の利益を失うからである。

合併を行う場合に、いずれを合併法人、被合併法人とするかは、諸般の事情を総合勘案して自由に決定されることであり、その際、課税上も不利益を被らないように配慮することは、経済人として合理的な行動であり、そのような合理的配慮に基く合併を不合理、不自然であるということはできない。

(6) さらに、本件合併は、そもそも法人税の負担を不当に減少させる結果となるものではない。

法五七条は、法人の繰越欠損金の損金算入について、一定の期間制限を設け、また、国税庁通達及び最高裁判例によると、吸収合併において被合併会社の欠損金額は、合併会社に承継されないものとされている。

しかし、本来は、企業の利益を正確に把握するためには、欠損金額を繰越控除するのは当然のことであって、課税原則の例外とか恩恵とみなすべきものではなく、欠損金額は、無制限に繰越控除されるべきであり、また、合併した場合においても、当然に承継を認めるべきものである。このような不合理な税務行政による不利益を免れるために、欠損会社を合併法人とする合併を行って繰越欠損金の引継ぎをしたとしても、当然の成行きであり、これによって納税者が特に有利になったわけではなく、単に不利を免れたに過ぎないから、これをもって税負担を不当に減少させる結果となる場合に該当するものということはできない。

もっとも、逆さ合併における合併会社たる欠損会社が単に商業登記簿上残存しているにすぎない実体のない休眠会社であり、これと何ら事業の関連を有しない黒字会社が単に欠損会社の繰越欠損金を課税上有利に利用するために合併するような場合(欠損会社の買取り)には、税負担を不当に減少させる結果となるといわれてもやむを得ない。しかし、本件においては、欠損会社であるサン電工は、実体のある活動中の会社であり、その所有資産を売却すれば譲渡益が発生する可能性があり、また、業績を盛り返し、利益をあげる可能性も否定できないものであった。したがって、その繰越欠損金は、まだ同社自体において損金算入の可能性のあるものであったから、もし旧サン電子がサン電工を吸収合併する形式を採ることによって右欠損金が承継されず、消滅するとすれば、課税上いわれのない不利益を受けることになるのであり、本件合併の形式は、右不利益を回避するために、採られたものであって、前記欠損会社の買取りと厳に区別されるべきである。

(四) 以上のとおり、サン電工が旧サン電子を吸収合併したことを法一三二条によって否認することは許されず、その他これを否認する根拠はないから、サン電工の繰越欠損金は存続し、合併後のサン電工(商号変更後のサン電子)が法五七条に基づき、課税所得の計算上右繰越欠損金を損金算入できるのは当然である。

(五) 被告福山税務署長は、サン電工が旧サン電子を吸収合併したのは、通常行われている行為ではないとして否認し、旧サン電子がサン電工を吸収合併するのが通常行われる行為であると認定した。これを前提とすると、合併により消滅する会社は、旧サン電子ではなく、サン電工ということになる。ところで、合併により消滅する会社は、合併時の属する事業年度につき、特に合併期日までを一事業年度とみなしてその「みなし事業年度」の所得を申告納税することになっている(法一四条二号、七四条一項。ただし、実際の申告納税は、国税通則法六条により存続会社が承継して行う。)。

本件においては、消滅会社である旧サン電子がみなし事業年度の申告納税を行ったのであるが、仮に被告福山税務署長の本件合併形式の否認が正当であるならば、消滅会社は、サン電工ということになるから、同社のみなし事業年度の所得につき更正処分をすべきものである。しかるに、同被告は、これをせず、単に繰越欠損金の損金算入を否認したのみである。右違法な更正処分により、原告は、次のような課税上の不利益を被ることになる。

すなわち、サン電工は、合併時の属する事業年度(昭和五六年五月期)において合併前から有していた資産(建物、構築物、借地権)を処分して一六七六万円の利益をあげたが、このうち六〇〇万二六〇〇円は、合併前の昭和五五年七月二三日付け売買に係るものである。サン電工(合併後のサン電子)は、右事業年度の法人税申告において、右利益一六七六万円を益金に算入したが、繰越欠損金を損金算入したので、右利益は課税されない。しかるに、同被告が本件更正処分により繰越欠損金の損金算入を全額否認したので、右利益は、全部課税されることとなった。しかし、同被告が右否認に基づいて更正を行うのであれば、サン電工につきみなし事業年度(昭和五五年六月一日から同年一〇月一日まで)を設定し、この間の前記六〇〇万二六〇〇円の利益については、合併前の利益であるから、当然に当該利益(益金)の範囲内で繰越欠損金を損金算入すべきである。そうすれば、少なくとも右利益の限度で、サン電工は、課税を免れた筈である。しかるに、同被告が違法にもかかる更正処分を行ったことにより、サン電工は、右利益全部に課税されるという不利益を被ったものである。

3  被告福山税務署長の本件合併の否認及びこれに基づく本件更正処分は、以上述べたとおり違法であり、原告は、過少申告していないから、同被告の過少申告加算税賦課決定も違法であり、取り消されるべきである。

七  原告の反論に対する被告福山税務署長の認否

1  原告の反論1の(一)のうち佐藤織産、サン電工及び旧サン電子は、佐藤一族がその発行済株式の過半数を直接又は間接に所有する会社であったこと、中国自動車整備が主張の日に設立され、主張のような事業を行っていたことは認める、旧サン電子が事業全般にわたり佐藤企業グループの他の会社と緊密に協力して事業を営んでいたことは否認する。

2  同(二)のうちサン電工が目的及び商号を変更したことは認めるが、その余は否認する。

3  同(三)のうち旧サン電子が黒字会社、サン電工が赤字会社であったこと、国税庁の取扱いによれば、被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継ぐことを認めないこととされていることは認めるが、その余は否認する。

4  同(四)のうち合併契約書が調印されたことは認める。

5  同2の(一)ないし(四)はいずれも争う。

6  同2の(五)のうちサン電工が合併時の属する事業年度において合併前から有していた資産を処分して一六七六万円の利益をあげ、このうち六〇〇万二六〇〇円は、合併前の昭和五五年七月二三日付け売買に係るものであることは認めるが、その余の主張は争う。

本件更正処分は、法五七条の繰越欠損金額の損金算入の適否の観点から、合併存続会社の繰越欠損金額の損金算入という行為、計算につき法一三二条の規定を適用して当該行為、計算を否認し課税関係を律したものであるから、原告の主張は失当である。

すなわち、合併当事会社の事業年度についてまで法一三二条の規定を適用して課税関係を律したものではないのであって、このような課税処分の方法が違法であるということはできない。けだし、法一三二条の規定は、同族会社等の行為又は計算を否認する規定であるから、同条によって、法人の事業年度の意義とみなす事業年度について定めている法一三条及び一四条を無視又は変更してまで当該規定以外の事業年度を新たに設定して課税関係を律することは、法一三二条の効力範囲を逸脱する課税処理というべきだからである。

7  同3は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一  本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定について

一  請求原因1(原告とサン電子との関係)、同2(被告福山税務署長の本件更正及び過少申告加算税賦課決定)及び同4(不服申立て)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正処分の適法性について判断する。

1  被告福山税務署長の主張1(課税処分の経緯)の(一)、(二)、(四)、(五)、同2の(三)の事実(本件合併の経緯、ただし、(1)のうち「漸次事業閉鎖の方向へ向かっていた」との部分、(2)の事実、(4)のうち「右増資に係る新株式に通常の資産価値は全く存しないものである」との部分及び「その経営状況からして資産価値がないにもかかわらず」との部分、(6)のうち「サン電工が目的としていた事業は全く行わず、被合併会社旧サン電子の電子、電気製品の部品製造の事業のみを継続している」との部分及び(7)のうち「また、サン電工自体事業を閉鎖していた当時の状況からは、通常合併できる状況にないにもかかわらず」との部分を除く。)は当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すると、次のとおり認められる。

(一) 本件合併の当事者たる合併法人サン電工及び被合併法人旧サン電子は、ともに佐藤織産を中核とする佐藤企業グループに属し、他の傘下企業同様、佐藤一族がその発行済株式の過半数を直接又は間接に有する法人である。佐藤企業グループに属する会社としては、他に軍鶏被服株式会社、軍鶏織物株式会社、サン電機工業株式会社、サン開発株式会社、サン観光株式会社及びサン油機工業株式会社があった。

佐藤企業グループの中核会社である佐藤織産は、佐藤群治郎(以下「群治郎」という。)が昭和七年に創業した広幅織物製造、被服縫製加工卸問屋の個人企業(佐藤群治郎商店)を昭和二四年に株式会社に改組したものであり、神辺地方の代表的な企業として、主として作業服(商標軍鶏印)の製造、販売を行っていた。佐藤織産は、昭和三〇年代に織物の製造部門を軍鶏織物株式会社に、被服の縫製加工部門を軍鶏被服株式会社にそれぞれ分離して移した。

佐藤企業グループは、昭和四〇年以降電子、電機業界にも進出し、旧サン電子及びサン電機工業株式会社(設立時の商号は、ワイエス・アパレル株式会社)を設立し、シャープ株式会社と提携して、前者は卓上電子計算機及び半導体を、後者は複写機を製造した。

佐藤企業グループ各社の代表取締役には、サン電工の前身である中国自動車整備を除き、いずれも群治郎の長男である佐藤敬治(以下「敬治」という。)が就任し、同人が全体を統括し、佐藤織産の経理部長が各社の資金繰りを管理するなどし、各社は、資金繰りその他経営全般にわたって緊密に協力していた。

(二) 中国自動車整備は、群治郎の三男佐藤秀毅(以下「秀毅」という。)が中心となって昭和四一年一一月三〇日に資本金一五〇万円で設立され、秀毅が代表取締役に就任した。設立時の発行株式数三〇〇〇株は、秀毅が一四〇〇株、佐藤織産が八〇〇株、群治郎、佐藤淑江(秀毅の妻)及び佐藤和子(敬治の妻)が各二〇〇株、横谷逸子(秀毅の姉)及び横谷十九雄(右逸子の夫の弟)が各一〇〇株を引き受けた。中国自動車整備は、秀毅所有土地上に工場及び事務所用建物を建築し、当初、自動車の修理を主として行っていたが、後に自動車の販売も手懸けるようになった。

(三) 同社は、設立以来、放漫経営のため業績不振であったが、昭和四七年吉川斉一が取締役に就任して自動車の販売部門を拡張し、資金繰りのため架空ないし不良売上を計上するなどしたため、主要取引金融機関である備後信用組合からの借入れが急増し、昭和五四年には常時一億円程度の借入れがあり、その支払が遅延していたほか、右組合に担保に差し入れていた手形が不渡りになるなどの事故が発生した。そのため、右組合より敬治に対し善処方の要請があり、佐藤織産は、昭和五四年に経理担当の岡功三を中国自動車整備に派遣し、経理内容を調査した。佐藤織産は、中国自動車整備に対し従来から三〇〇〇万円程度の枠内で手形決済資金等を仮払金の形で融資し、資金援助をしていたが、右調査の結果、経理内容が右のとおり著しく悪化しており、倒産寸前の状態に立ち至っていることが判明したので、中国自動車整備に対する支援を強化することになった。佐藤織産は、その一環として右岡に中国自動車整備の経理を担当させたほか、資金援助を増やし、同社に対する仮払金は、昭和五五年三月末には約八一〇〇万円に達した。また、その頃、佐藤織産及び群治郎らは、中国自動車整備の右組合に対する債務につき合計一億円の限度で保証する旨の保証書を差し入れた。

(四) 佐藤織産では、中国自動車整備の支援を強化する一方、同社の経営の建直しについて検討したが、自動車修理及び販売の事業を継続した場合、赤字が増えるのみで倒産を免れず、再建の見込みがないところから、昭和五四年一〇月末に右事業を廃止し、企業を閉鎖する方針が打ち出された。右方針に沿って、中国自動車整備は、昭和五五年二月末日をもって事業を廃止するとともに、同年三月二九日付けで監督官庁である広島陸運局長に自動車分解整備事業の廃止届を提出した。同社は、自動車の修理販売以外の新規事業に転換して企業の再建を図ろうにも新規事業に必要な資金の手当てや人材確保の見込みがなく、新規事業への進出も断念せざるを得ず、債務整理をして清算するほかない状況であった。

ところで、佐藤織産も昭和五〇年の第一次オイルショックによる製品価格の低迷で原価割れで製品を販売せざるを得ず、四、五億円の赤字を出したが、その後も繊維産業の構造不況で容易に業績が回復せず、年間二億円程度の赤字を計上し、昭和五四年には累積赤字が約一二億円に達した。そのため、佐藤織産は、金融機関から新たに融資を受けることも困難となり、金融機関からの借入金を返済するためには、佐藤織産が神辺駅前に所有していた土地を処分する以外に方法がない状況となった。そこで、系列会社のサン開発株式会社が金融機関から資金の融資を受け、これをもって佐藤織産から右土地を購入し、これを大型スーパーの店舗の敷地として賃貸し、右賃貸料をもって右融資の返済を行うことになり、昭和五五年一月にサン開発株式会社に対する右融資が実行され、佐藤織産は、右土地を売却して約一〇億円の利益を計上し、累積赤字を解消した。右のような状況下では、佐藤織産の資金援助にも限度があり、敬治は、中国自動車整備の倒産を回避し、その清算業務を円滑に行うには、同社を佐藤企業グループの優良会社である旧サン電子と合併させる以外にないと考えるようになった。

(五) 中国自動車整備は、右のような状況下で、昭和五五年三月一日商号をサン電工株式会社に変更した。サン電工の従業員は、事業の縮小に伴い、昭和五四年一〇月に一名退職したのを始めとし、昭和五五年五月までに全員退職した。

(六) サン電工は、同年三月二五日増資新株九〇〇〇株、株式払込金四五〇万円、同年四月一〇日増資新株一万八〇〇〇株、株式払込金九〇〇万円、同年五月一五日増資新株二万株、株式払込金一〇〇〇万円と三回にわたり増資を行った。右第一回目の増資は、佐藤織産が引き受け、第二回目の増資は、横谷紀昭が二五〇株、谷本忠が二五〇株、サン開発株式会社が一万七五〇〇株をそれぞれ引き受け、第三回目の増資はサン開発株式会社が全株引き受けているが、払込金はいずれも佐藤織産の当座預金から払い出され、同社から右横谷、谷本及びサン開発に対する仮払金として処理されている。そして、右増資による払込金は、払込みの翌々日には佐藤織産からの仮受金の支払に充てられており、右増資により得た資金は、サン電工の事業資金には全く用いられていない。また、同年三月五日及び四月三日には、資産価値の認められないサン電工の株式の譲渡が行われている。右のような増資や株式の譲渡は、サン電工と旧サン電子との合併に備えてサン電工の株主構成及び株主の持株割合を旧サン電子のそれと一致させるために行われたものである。

(七) サン電工は、同年五月二〇日その事業年度を毎年五月末日とするように変更し、サン電工と旧サン電子の決算期を一致させた。

(八) サン電工と旧サン電子は、同年六月一日合併覚書を交わした上、同年七月一日合併契約書に調印し、サン電工は、同月一五日その目的を一部変更し、「電子並びに電気製品の部品の製造」を加えた。

(九) サン電工は、前記のとおり、秀毅所有土地上に工場及び事務所を所有していたが、サン電工及び秀毅は、同年七月二三日右土地の一部(サン電工の借地権を含む。)を大前商事株式会社に代金一七〇〇万円で売却し、サン電工は、八五〇万円を取得した。なお、サン電子及び秀毅は、本件合併後の昭和五六年三月二七日残りの土地及び地上建物(サン電子の借地権を含む。)を旭セメント工業株式会社に代金二七〇〇万円で売却し、その半額の一三五〇万円をサン電子が取得し、同日付けでサン電子は、当該譲渡建物等(建物、構築物及び当該敷地の整地費用)の帳簿価額二七四万一五五三円を減算処理した。サン電工は、右のとおり、本件合併後に帳簿価額二七四万一五五三円の借地上の建物等を一三五〇万円で売却したことにより実現した一〇七五万八四四七円に相当する借地権等を除いては、その後の事業活動に寄与するようなのれん又はノウハウ等帳簿上に現われない財産的価値のある無形資産は有していなかった。

(一〇) サン電工は、昭和五五年一〇月一日、同社を合併法人、旧サン電子を被合併法人とする吸収合併を合併比率一対一で行い、右合併期日当日に、商号をサン電子株式会社に、本店所在地を福山市野上町一丁目二番一一号に、事業目的を電子並びに電気製品の部品製造等にそれぞれ変更し、商号、本店の所在地及び会社の目的を旧サン電子のそれと全く同一にし、同月二四日、右合併及び商号等変更の登記をした。

(二) 合併法人たるサン電工は、前記のとおり、業績不振で累積赤字が増加し、合併直前には、その額が一億〇三〇〇万五六四三円にものぼる欠損会社であり、合併時のサン電工の帳簿価額による債務超過額は七五四二万八八〇三円であった。

一方、被合併法人たる旧サン電子は、昭和四五年七月一八日、電子、電気製品の部品の製造を目的とし、資本金五〇〇万円(昭和四九年三月九日に二〇〇〇万円に増資)で設立されたが、設立以来、電子業界の好況により業績は良好であり、連年多額の利益を計上しており、その従業員は二〇〇名を超える優良企業であって、合併時の帳簿価額による純資産額は一億七六四五万一〇八一円であった。

(三) サン電子は、本件合併後、被合併法人である旧サン電子の設備及び従業員により、同社の従前からの事業である電子及び電気製品の部品の製造のみを継続して行っており、合併法人であるサン電工の従前の事業ないし新規事業は全く行っていない。

以上のとおり認められる。

以上認定の事実によれば、サン電工は、本件合併時、債務超過会社であり、債務を整理して清算するほかない状況にあり、合併後のサン電子の事業の用に供すべき設備又は経済的価値のある無形資産を有しておらず、また、合併後、サン電子は、被合併法人である旧サン電子の事業のみを継続して行い、サン電工の従前の事業ないし新規事業は全く行っていないのであって、本件合併は、サン電工を企業として再建した上、同社の従前の事業を継続したり、新規事業を行うために行われたものではないことが明らかである。本件合併の実体は、欠損会社であるサン電工が従前の事業を廃止して同族系列法人グループである佐藤企業グループに属する旧サン電子と合併することにより、実質的に合併法人であるサン電工の債務を引き受けさせ、同社の清算結了を事実上行ったものであって、赤字会社を存続会社、黒字会社を消滅会社とする、いわば債務超過会社清算型の逆さ合併であると認められる。そうだとすると、本件合併は、合併の法形式とその経済的実質とがかい離しており、通常ならば合併法人とすべき黒字法人を被合併法人とし、通常ならば被合併法人とすべき赤字会社を合併法人としたものであって、法形式としては赤字法人であるサン電工が黒字法人である旧サン電子を吸収合併したものであるにもかからわず、その経済的実質においては、黒字法人である旧サン電子が赤字法人であるサン電工を吸収合併したものと評価し得るものである。

そして、<証拠>によれば、本件合併において逆さ合併の形式を採用したのは、旧サン電子を合併会社、サン電工を被合併会社とした場合、サン電工が有する本件繰越欠損金を法五七条により合併後の会社の所得の計算上損金に算入することが税務上認められていないところから、専ら右損金算入を行う意図からであったことが認められる。

2  そこで、以上のような逆さ合併が行われた場合において、法五七条により繰越欠損金の損害金算入が認められるか否か検討する。

法五七条は、法人が各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合に、欠損金額の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出しているときに限り、当該欠損金額に相当する金額を所得の金額の計算上損金の額に算入することを認めている。右規定の立法趣旨は、法人税は、各事業年度毎に所得金額を計算し、これによって課税されるものであり(法五条)、その所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金を控除したものとするのが原則であるが(法二二条)、税法が法人税については各事業年度毎の所得によって課税する原則を採っている関係上、右原則を貫くときは、所得額に変動のある数事業年度を通じて課税する場合に比し税負担が過重となる場合が生ずるので、その緩和を図るため、例外として、前五年間に生じた欠損金額については、青色申告法人に限り、一定の条件を付した上、所得の金額の計算上損金の額に算入することができることとしたものであって、いわば青色法人の特典と解され、その適用は、課税原則の例外として制限的に解するのが相当である。

右のような法五七条の目的・趣旨にかんがみ、欠損金額の繰越控除が認められるのは、そのような操作の許される事業年度の間に経理方法に一貫した同一性が継続維持されることを前提としてはじめて認めるのを妥当とされる性質のものと解されるから、同条により繰越欠損金額を損金の額に算入することのできる法人は、当該法人の事業経営上生じた繰越欠損金額を有する法人に限られるものというべきである。

したがって、法人が合併した場合において、被合併法人の有する繰越欠損金額を合併法人の所得の金額の計算上損金に算入することは許されない。

ところで、本件合併は、サン電工が合併法人、旧サン電子が被合併法人となり、合併法人たるサン電工の繰越欠損金を損金に算入したものであって、形式的には、右の場合と異なる。しかしながら、前説示のとおり、本件合併は、その法形式にかかわらず、経済的実質において黒字法人である旧サン電子が赤字法人であるサン電工を吸収合併したものと評価されるものであって、合併の実体としては、法律上の合併法人であるサン電工の事業ないし経営実体が全く消滅し、被合併法人である旧サン電子の企業としての実体のみが存続継続しているのであって、企業の実体は、合併の前後を通じて変っていないものである。

そうだとすると、存続会社であるサン電工が合併の前後を通じて実質上同一性を保持しているとはいえず、企業としての実体を失ったサン電工の事業経営上(したがって、実質的に存続する旧サン電子と無関係な経営のもとに)生じた繰越欠損金を、合併後経営実体の存続する被合併法人である旧サン電子の事業活動のみによって生じた所得から控除することは、実質上、旧サン電子がサン電工の事業経営上生じた繰越欠損金を旧サン電子の損金として算入することにほかならないから、前説示の法五七条の趣旨・目的に照らし、同条の容認しないところであると解するのが相当である。

3  次に、法一三二条の規定の適用について検討する。

本件合併において、逆さ合併の方式を採用したのは、前記認定のとおり、専ら本件繰越欠損金を損金に算入する意図に出たものであって、右のような租税負担の回避以外の、例えば、上場会社としての株式の額面を五〇〇円から五〇円に変更するためとか、欠損会社に資産的価値のある商号やのれんがある場合にこれを引き継ぐためなどの合理的な理由があったものではない。

営業活動や経営上問題のない黒字優良会社である旧サン電子が、債務整理をして清算するほかない赤字欠損会社であるサン電工に吸収合併されるがごときは、前記のような合理的な理由が認められるなどの特段の事情のない限り、経済人の行為としては不合理、不自然なものであり、まして、前認定のように合併後旧サン電子の事業のみを継続し、合併直後に合併法人たるサン電工の商号、事業目的及び本店所在地を被合併法人たる旧サン電子のそれに一致するように変更しているなどの事実に照らせば、その不合理、不自然であることが一層明白であるといわなければならない。

そうすると、本件合併の法律上の形式に従って本件繰越欠損金の損金算入を容認した場合、実質的には、法五七条の趣旨・目的に反して被合併法人である旧サン電子が本来負担することとなる法人税額を不当に減少させる結果となると認められるから、右は、法一三二条にいう租税回避行為に該当するものというべきである。してみれば、被告福山税務署長は、同条の規定に基づき、本件合併の実体に則して旧サン電子を合併会社、サン電工を被合併会社として法人税の課税標準等を計算することができるものといわなければならない。

ところで、合併により消滅する会社は、合併時の属する事業年度につき、特に合併期日までを一事業年度とみなしてその「みなし事業年度」の所得を申告納税することになっている(法一四条二号、七四条一項)。

しかるに、サン電工は、合併時の属する昭和五六年五月期において合併前から有していた資産(建物、構築物及び借地権)を処分して一六七六万円の利益をあげ、サン電工(合併後のサン電子)は、右事業年度の法人税申告において、右利益一六七六万円を益金に算入したこと、右利益のうち六〇〇万二六〇〇円は、本件合併前の昭和五五年七月二三日付け売買に係るものであることは当事者間に争いがない。

そうすると、法一三二条の規定により旧サン電子を合併(存続)会社、サン電工を被合併(消滅)会社として課税標準等を計算する場合、前記利益六〇〇万二六〇〇円は、右計算における消滅会社たるサン電工の昭和五五年六月一日から同年九月三〇日までのみなし事業年度の所得の計算上、本件繰越欠損金の損金算入により所得に計上されなかった筋合いのものである。

したがって、法一三二条の規定により旧サン電子を合併(存続)会社、サン電工を被合併(消滅)会社として昭和五六年五月期の法人税の課税標準等を計算する場合、右利益六〇〇万二六〇〇円は、益金に算入すべきでないものといわなければならない。

以上によれば、被告福山税務署長は、昭和五六年五月期及び昭和五七年五月期の法人税の課税標準等を計算するに当たって、本件繰越欠損金の損金算入を否認することができるが、昭和五六年五月期の法人税については、所得を、修正申告に係る繰越欠損金控除前の所得五五二三万七二五〇円から右六〇〇万二六〇〇円を差し引いた四九二三万四六五〇円として計算しなければならないものというべきである。

被告福山税務署長は、法一三二条により本件繰越欠損金の損金算入という行為計算を否認したのであって、合併当事会社の事業年度についてまで同条の規定を適用して課税関係を律したものではないから、右のような所得計算をするのは、同条の効力範囲を逸脱する課税処理であると主張する。しかしながら、右のような所得計算は、法一三二条の規定により課税標準等を計算するに当たり、前説示の理由により本件合併前に生じた前記利益を所得に計上しないというにすぎず、サン電工につきみなし事業年度を設定して更正処分をするものではないから、右主張は採用しない。

4  原告主張の反論2のうち以上の説示において触れていない点につき、以下検討を加える。

(一) 原告の反論2の(一)の(1)について

同族会社の行為計算の否認規定は、大正一二年の所得税法の改正により同法七三条ノ三に「前条ノ法人ト其ノ株主又ハ社員及其ノ親族、使用人其ノ他特殊ノ関係アリト認ムル者トノ間ニ於ケル行為ニ付所得税逋脱ノ目的アリト認ムル場合ニ於テハ政府ハ其ノ行為ニ拘ラス其ノ認ムル所ニ依リ所得金額ヲ計算スルコトヲ得」と規定されたのが最初である。右規定によれば、否認の対象は、法人と株主等の特殊関係者との間における取引に限定されていたことが明らかである。しかし、右規定は、大正一五年に「同族会社ノ行為又ハ計算ニシテ其ノ所得又ハ株主社員若ハ之ト親族、使用人等特殊ノ関係アル者ノ所得ニ付所得税逋脱ノ目的アリト認メラルルモノアル場合ニ於テハ其ノ行為又ハ計算ニ拘ラス政府ハ其ノ認ムル所ニ依リ此等ノ者ノ所得金額ヲ計算スルコトヲ得」と改正された。右改正により、否認の対象を法人と株主等との取引に限定することなく、広く「同族会社の行為又は計算」について、「その同族会社の所得又は株主等若しくはその特殊関係者の所得」につき所得税逋脱の目的がある場合に、否認の対象とされるに至ったものと解される。そして、同族会社等の行為又は計算の否認規定は、昭和一五年の法改正により法人税法に引き継がれ、その後数次の改正を経て現行の一三二条の規定となったものであるが、その内容は大正一五年の右改正後の内容と基本的には異ならないものである。

また、旧法人税法基本通達三五五項を根拠として否認の対象を原告主張のように限定して解釈するのは、右法改正の経緯に照らし相当でないというべきである。

原告は、立法の経緯や右通達を根拠に、否認の対象は、同族会社とその株主その他特殊関係者(個人)との間における作為的取引(隠れたる利益処分)に限られると主張するが、独自の見解であって、採用できない。

(二) 同(一)の(2)について

法一三二条の同族会社の行為計算否認規定の趣旨は、同族関係者によって会社経営の支配権が確立されている同族会社においては、法人税の負担を不当に減少させる目的で、非同族会社では容易になし得ないような行為計算をするおそれがあるので、同族会社と非同族会社との租税負担の公平を期するために、同族会社であるがゆえに容易に選択することのできた、純経済人として不合理な租税負担を免れるような行為計算を否認する権限を認めたものであって、同族会社に対してのみこのような行為計算の否認規定を設けたことについては十分合理的な理由があるものというべきである。したがって、同条により非同族会社もなし得る行為計算について同族会社の行為計算を否認しても憲法一四条に反するものとはいえない。

また、非同族会社には、同族会社に近いものから所有と経営が分離した巨大企業まで種々な段階のものがあることから、何が非同族会社であるがゆえになし得ない行為に当たるか一義的に判断することは著しく困難であって、法一三二条の否認の対象を、同族会社であるがゆえになし得る(非同族会社ではなし得ない)行為という基準によって限定するのは相当でないというべきである。

したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

(三) 同(二)について

法一三二条の規定による行為計算の否認は、課税手続上のものにすぎず、現実になされた行為計算そのものに実体的変動を生ぜしめるものではないから、合併等の組織行為を否認した場合、これによって特に課税関係が複雑になるものとは認められず、法一三二条は、合併等の組織行為には適用されないと解さなければならないものではない。

よって、この点に関する原告の主張は採用できない。

(四) 同(三)について

原告は、本件合併は、サン電工の倒産による佐藤企業グループの連鎖倒産を回避するためであって、経済的、合理的理由があったと主張するが、本件合併が租税回避行為として否認されるべき不自然、不合理なものであるか否かは、合併の法形式も含めて全体的に観察すべきものであるから、合併自体に原告主張のような目的があったとしても、直ちに、本件逆さ合併が不自然、不合理でないものということはできない。

よって、右主張は採用できない。

次に、原告は、登記実務上は、欠損会社を被合併法人とする合併登記の申請は受理されないから、赤字会社と黒字会社との合併においては、逆さ合併こそが通常行われる形式であると主張する。たしかに、「債務超過の状態にある株式会社を解散会社とする吸収合併の登記は受理できない。」との法務省見解(昭和三三年五月二六日付民事四発第七〇号民事局第四課長変更指示)が存在する。しかし、実際の合併登記においては、申請時に被合併法人の欠損金を明らかにする必要はなく、また登記官が右の点を審査する機会もないため、欠損会社を被合併法人とする合併の登記申請が現実に受理され、登記されているのであって、本件合併において、逆さ合併の方式が採られたのは、前記認定のとおり、専ら、本件繰越欠損金の損金算入を意図したものであって、右登記実務に従ったものではない。その上、法一三二条の規定による行為計算の否認は、課税手続上のものにすぎず、現実になされた行為計算そのものに実体的変動を生ぜしめるものではないから、右法務省見解は、本件繰越欠損金の損金算入を否認する妨げとなるものではなく、右見解を根拠として本件逆さ合併が不自然、不合理でないものということはできない。

よって、原告の右主張は採用できない。

5  以上の説示に照らせば、サン電子の昭和五六年五月期の更正処分は、所得金額四九二三万四六五〇円の限度においては、これを取り消すべき違法は認められないが、これを超える部分は違法というべきであり、また、昭和五七年五月期の更正処分には、これを取り消すべき違法はないものというべきである。

三  次に、本件過少申告加算税賦課決定の適法性について判断する。

昭和五七年五月期の更正が違法であることは前説示のとおりである。そして、原告が右期の確定申告時において、昭和五六年五月期の更正の理由を承知していたことは当事者間に争いがないから、昭和五七年五月期の更正による納付すべき税額の計算の基礎となった事実につき、原告がその計算の基礎としていなかったことについて、国税通則法六五条二項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定に基づいて行った本件過少申告加算税賦課決定は適法であり、これを取り消すべき違法があるものとは認められない。

第二  本件裁決について

一  請求原因1(原告とサン電子との関係)、同2(広島福山税務署長の課税処分)、同4(不服申立て)及び同5の(一)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

原告は、本件裁決は、行政不服審査の迅速性が損なわれており、国民の国税に関する迅速な権利救済を行う国税不服申立制度の趣旨を逸脱しているから、違法であると主張する。審査請求がなされた場合には、国税不服審判所は、迅速に事件の調査及び審理を行った上、裁決をすべきことは当然である(行政不服審査法一条一項)けれども、国税不服審判所が正当な理由もなく長期間決定をしないで放置している場合に、請求人が不作為の違法確認の訴えや損害賠償請求によってその救済を求め、あるいは裁決を経ないで訴訟を提起し得るのは格別、裁決に至るまで長期間を要したというだけの理由で直ちに当該裁決が違法になると解することは相当でないし、当該裁決を取り消しても、迅速な権利救済から却って遠ざかることとなり、取り消す実益もない。したがって、本件裁決がなされるまでに長期間を要したからといって、当然に右裁決を違法として取消しを求め得るものということはできず、この点についての原告の主張は採用できない。

次に、原告は、第一次審査請求と第二次審査請求の併合の法的な手続がなされないまま事実上の併合審理がなされ、審理に関与すべきでない者が関与していた疑いがあり、本件裁決の手続に違法があると主張する。しかし、本件全証拠によっても本件裁決に右のような瑕疵があるものとは認められないばかりでなく、行政不服審査手続においては、審査請求事件が係属すれば、国税不服審判所は、当然にその審理をする権能を有するのであるから、担当審判官の指定、事件の併合がなされる以前に事実上の併合、審理がされていたとしても、審理手続及び裁決が直ちに違法となるものではないと解すべきである。

よって、原告の右主張は、理由がなく、採用できない。

二  以上の次第で、本件裁決には、これを取り消すべき違法があるものということはできない。

第三  結論

以上の説示に照らせば、原告の本件請求は、被告福山税務署長の昭和五六年五月期の更正処分のうち所得金額四九二三万四六五〇円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び被告国税不服審判所長に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高升五十雄 裁判官 山崎宏は、差し支えにつき、裁判官 渡邉 弘は、転補につき署名捺印できない。裁判長裁判官 高升五十雄)

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